リポ多糖はERK1/2シグナルを介して歯根膜幹細胞の分化おび免疫制御能を変化させる

Lipopolysaccharide can modify differentiation and immunomodulatory potential of periodontal ligament stem cells via ERK1,2 signaling

J Cell Physiol. 2018;233:447–462.

Tamara et al., University of Belgrade, Serbia

 

リポ多糖(LPS)は口腔環境においては、再生を担う細胞にとってpertinent deleterious 因子である。本研究の目的はLPS(E. coli)の歯根膜幹細胞(PDLSCs)へのin vitroでの影響とそれに関連するシグナル経路を明らかとすることである。LPSはPDLSCsの免疫学的に検証した表現型や増殖、生存活性、細胞周期には変化を及ぼさなかった。しかしLPSはPDLSCsの骨形成をRunx2, ALP,OCnのmRMNA発現を減少することで抑制し、一方でSox9とPPARgの発現を増加させ、軟骨形成および脂肪形成を増強するなど、細胞の分化傾向決定に影響を及ぼしていた。LPSはPDSLCsの拘縮能やTGF-b, ファイブロネクチン, a-SMA, NG2の発現を増強したことから、筋線維芽細胞様の表現型の増加をもたらすことが明らかとなった。また、LPSはPDLSCsにおいて抗炎症性のCOX-2や炎症性因子であるIL-6のタンパク・遺伝子レベルを増強した。LPS刺激したPDLSCsの存在下において、末梢血単核球(MNC)の血管内皮外への遊走が抑制されたが、これはMNCでのCD29発現の減少と同時に観察された。しかし、PDLSCsはマイトゲンによるCD4+リンパ球の増殖およびCD4+/CD25high/CD4+/CD25lowリンパ球比の増加を抑制するが、LPS刺激はこれには影響を及ぼさなかった。LPS刺激を行ったPDLSCsはMNCsにおいてCD34+,CD45+細胞率に変化を与えなかったが、CD33+/CD14+の血球の割合を減少させた。さらに、LPS処理はPDLSCsによるMNCsのコロニー形成能増強を抑制し、なかでも特にCFU-GMを抑制した。LPSによるERK1,2活性化が少なくとも部分的には、PDLSCsの分化能、筋線維芽細胞様性質の獲得、免疫制御機能の変化に関与している結果が得られた。

 

In vitroでLPSを振りかけてPDLSCの色々な機能の変化を調べてみた研究。分化、免疫制御の作用が抑制されMSCとしての良さが減弱するという結果。myofibroblast分化が出てきたので成果。MAPKはあらゆる刺激で変化していて、さらに選択的阻害剤が手軽に手に入るので実験がやりやすい。しかしそのため、ERKによって制御されているという結果が出ても、あまり驚きがない。論文の導入部分での違和感についてまとめると、PDLSCsが組織幹細胞であり再生や恒常性維持に重要な役割を果たしていて、PDLSCsの骨芽細胞分化能が下がるとホメオスタシスや再生能が落ちる、としている。果たしてそうだろうか?そもそもPDLSCのin vivoでの局在、役割は不明だ。もし仮想の組織幹細胞であることを飲み込んだとして、組織幹細胞は通常ニッチェに存在し低い活動性を示す。MSCの免疫制御能は移植によって、免疫を抑制する作用がありそのように使えるということ。本当にPDLSCがlocal inflammatory cuesを感知しているのだろうか、そしてそれは組織の炎症を左右するほど大きなものなのだろうか。組織の幹細胞が炎症によって機能変化し病態に関与するという説は理解できるし、むしろ支持しているが、その現象を培養PDLSCで検証するとなると話は違うのではないか。実験結果はLPSの作用によってMSCの幹細胞としてのよいところが失われるというもの。CD29はインテグリンb1、CD4+/CD25high は制御性T細胞のこと。炎症性刺激によってmyofibroblasticな表現型が誘導されることを知った。