PDLSC細胞シートにおける細胞外マトリクスおよび機能的性質の年齢に関連した減弱について

Age-related decline in the matrix contents and functional properties of human periodontal ligament stem cell sheets 

Acta Biomater. 2015 Aug;22:70-82.

Wu RX et al., Fourth Military Medical University, PR China

 

本研究では、異なる年齢の患者から得られた歯根膜(PDL)由来幹細胞(PDLSC)を用い、細胞シート形成における年齢の影響を検討した。まずコロニー形成能、細胞表面マーカー、増殖/分化能、細胞老化関連b-ガラクトシダーゼ(SA-bG)染色、多能性幹細胞関連転写因子発現を用いてPDLSCsの活性を測定した。細胞シートのさらなる応用おいて年齢に関連する再生能力の変化を予想するために、これらの細胞から作成した細胞シートの能力を、細胞外マトリクスECM)量、骨芽細胞分化に必要とされる機能的特徴から評価した。その結果、ヒトPDLSCsは異なる年齢の患者PDLより採取可能であることが明らかとなった。しかし、PDLSCsの増殖および骨芽細胞分化能力、そして多能性幹細胞関連転写因子発現は年齢に関連して減少した。さらにSA-bGは年齢に関連して増加した。加齢した細胞では、形態観察とKi-67の免疫組織化学染色の結果から、細胞シートを形成する能力が減弱していた。ファイブロネクチン、インテグリンb1、Ⅰ型コラーゲンなどのECMタンパクの産生、アルカリフォスファターゼ活性(ALP)、ALP、Runx2、オステオカルシンなどの骨芽細胞関連遺伝子発現の結果から、高齢のドナーから得られたPDLSCsによって形成された細胞シートは、若いドナーから得られたものよりも骨形成能が低いことが示された。我々の結果は、細胞シート研究や歯周組織再生治療において、PDLSCシートの加齢に関連したECM量や骨形成能の減少を考慮に入れるべきであることを示している。

 

仮想の組織幹細胞とされるPDLSCの機能が年齢とともに減少することを、臨床応用を考えた細胞シートの質という論点から検討した論文。細胞シートの質の話としているが、加齢に伴う幹細胞機能の減少を見ている論文で、示されているデータに目新しいところは無い。加齢によって増殖、分化、マトリクス産生が減少し、SA-bGが増加している。概念的には疑いどころのないシナリオに沿ったデータだが、幹細胞の培養ではreplicative senescenceの影響やMSC集団としてのheterogeneityもあり、細胞バッチ間のバラつきが大きいと思われる。そういう点からみると本論文のデータは非常に綺麗で整っており、出来過ぎなほどの印象を受ける。生物学的老化の時計がどの程度の速度で進むかという点では、本論文のデータは46-62歳で最も下がっているが、個人的には20代には下降していると思っている。歯周病患者は50代以上が多く移植細胞の老化、さらにホストの場、細胞老化、培養による細胞老化が重なり再生医療は非常に条件が悪い。そこで他家由来細胞の移植となるのかもしれないが、歯科治療でそこまでリスクを負うのか、よく考える必要がある。医療経済的にもインプラントの存在も含めてこの細胞治療が合理的な治療となるのか?