喫煙はヒト歯根膜幹細胞の増殖、遊走および分化能力を抑制する

Cigarette smoking hinders human periodontal ligament-derived stem cell proliferation, migration and differentiation potentials

Scientific Reports, 2015, 5 : 7828

Ng et al., The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong, China

 

喫煙は破壊的な歯周病の進行に関与し、また治癒機転を遅らせる。我々は過去にタバコの主たる構成因子であるニコチンが抑制性マイクロRNA (miRNA)を介してヒト歯根膜由来幹細胞(PDLSC)の再生能力を減弱することを報告した。本研究では喫煙者における治癒遅延がPDLSCの再生能力の減弱によるものであると仮説を立てた。喫煙者および非喫煙者より得られた抜去歯からPDLSCを培養した。喫煙者のPDLSCでは有意な増殖率の減少と遊走能の低下が見られた。さらにBMP-2を用いた分化誘導を行った際のフォスファターゼ活性、カルシウム沈着、酸性ポリサッカライド染色が低下していた。対照的に喫煙者のPDLSCでは脂肪分化誘導において多くの脂肪滴の沈着が観察された。さらに、2つのニコチンに関連したmiRNA, hsa-miR-1305およびhsa-miR-18bが喫煙者のPDLSCで有意に上昇しており、これらのmiRNAがタバコの幹細胞への影響において重要な役割を果たしている可能性が考えられた。本研究の結果はタバコ喫煙がヒト成体幹細胞の再生能力に影響を及ぼす事の新たな証拠を提供するものである。

 

喫煙者由来のPDLSCでは非喫煙者のPDLSCと比べて機能的な低下がみられるのではないかという論文。昨日の論文で「PDLSCは95%の間葉系幹細胞と5%の神経堤由来幹細胞から成る」と書かれていたので、その根拠論文として引用されていた本論文を読むことにした。検討の対象になるのは、幹細胞として使えるポイント、つまり分化能と増殖、遊走能。気になるのはこのin vitroの機能をPDLSCの再生能力と書いているところ。アスコルビン酸+デキサメサゾン+bグリセロリン酸を用いた系をOsteogenesis骨形成としている論文もよくみる。喫煙者では分化、増殖、遊走、すべて低下している。エイジングの影響の研究でも思うのだが、こういう実験は非常に難しいはずだ。プライマリーPDLSCがコロニーを形成し出してからの日数や細胞数が喫煙者PDLSCでは低下するということだが、あの小さな歯根膜片の大きさをサンプル間で合わせることはほぼ不可能、さらにシングルにした時の細胞数を数えることも不可能あるいは不正確だと思うのだが、どのように定量しているのだろうか。In vitroの分化は細胞密度に大きく依存するが、細胞増殖スピードが大きく異なるpopulation間の比較は正確だろうか。染色された細胞を見ると、細胞密度が群間で全く異なっていてさらに脂肪や軟骨分化の写真はよくわからない。そもそも定量されていない。喫煙者では脂肪への分化が進んでいるそうだが、一般的に骨と脂肪の分化は天秤に乗っていて、どちらかが進めばどちらかが落ちる。そういう意味では筋は通っている。マイクロアレーのデータを出して力技で論文を締めているが特に何も示されていない。何より95%のMSCと5%の神経堤細胞の根拠は何もない。イントロに”PDLSC contain a heterogeneous population of mesenchymal stem cells(MSC) and neural crest-derived stem cells.”と書かれているだけで、そこに引用もない。私が読み落としているのだろうか。Scientific Reportsは大丈夫だろうか。