ヒト歯根膜幹細胞の細胞表面プロテオーム解析

Investigation of the Cell Surface Proteome of Human Periodontal Ligament Stem Cells

Stem Cells International, Volume 2016, Article ID 1947157, 13 pages

Xiong et al., University of Adelaide, Adelaide, Australia

 

本研究では、ヒト歯根膜幹細胞(PDLSC)の細胞表面のプロテオームをヒト線維芽細胞と比較して検討した。細胞膜溶解液の抽出前に細胞表面タンパクをCyDyeにて標識し二次元電気泳動を用いて展開した。発現の異なるタンパクのスポットを決定し、それをマススペクトロメトリーによって同定した。以前から間葉系幹細胞と関与が知られているCD73,CD90,AnnexinA2、sphingosine kinase 1の4つのタンパクをバリデーションに用いた。フローサイトメトリーでは、CD73とCD90がPDLSCと歯肉線維芽細胞に高く発現し、上皮細胞には発現しないことが明らかとなり、間葉系細胞と上皮系細胞の見分けに使うことができるマーカーであることが考えられた。Annexin A2はヒトPDLSCと歯肉線維芽細胞の細胞表面にわずかに発現しており、一方で上皮細胞では全く発現がないことも観察された。対照的に、Sphingosine kinase1は免疫組織化学的評価を用いた検討でテストしたすべての細胞で発現が検出された。これらのプロテオーム研究の結果はPDLSCの細胞表面タンパク発現のプロファイルをさらに詳しく決定する基礎的データになり、この細胞集団の理解に役立つと考えられる。そして、この幹細胞集団を精度よく抽出する新規方法を開発する助けになるであろう。

 

PDLSCの細胞表面タンパクからのマーカー候補を2次元電気泳動で線維芽細胞との比較から探した論文。PDLSCに特異的なマーカーを探すことでFACSで幹細胞を特異的に抽出できるなどの利点が期待できるが、歯切れの悪い結果しか得られなかったよう。比較対象が歯肉の線維芽細胞と包皮由来上皮細胞。CD73,CD90は以前よりよく知られた間葉系由来細胞に高く発現する分子。そもそも上皮と間葉由来細胞は形態が全く違うし、すでに上皮のマーカーが様々知られているので、いまさら上皮VS間葉間の発現の異なる分子の同定にはあまり意味がないのではないか。残るAnnexin2とsphingosin kinase 1だが、どちらも幹細胞と線維芽細胞をはっきり分けることはできない。というより、PDLSCや歯肉線維芽細胞自体がヘテロな集団で、すべてが幹細胞ではないし、一方は幹細胞が含まれているかもしれない集団ということで、この比較自体が厳しい検討であることは最初からわかっているはず。結果的にそのとおりになっているので、驚きもない。集団としての細胞のとらえ方を意識する必要がある。このような細胞間の比較もそろそろなのだろうか。CD73がAMPをアデノシンに変えて、細胞外でアデノシンレセプターを刺激してMSCの免疫制御作用を発揮している報告があるらしいことを知った。