ヒト歯科幹細胞の高解像度プロテオミック解析 SHEDおよびPDLSC特異的バイオマーカー

A High-Resolution Proteomic Landscaping of Primary Human Dental Stem Cells: Identification of SHED- and PDLSC-Specific Biomarkers

Int. J. Mol. Sci. 2018, 19, 158;

Taraslia et al., Biomedical Research Foundation of the Academy of Athens, Greece

 

歯科領域の幹細胞(DSC)が基礎研究および臨床家の興味の対象となっている。歯科領域の組織から数々の体性幹細胞(ASC)が単離され、それらの細胞としてのあるいは分子的特徴を反映して、実際に応用されると異なる結果が生じる。本研究で,我々は二つのヒト歯科由来生体幹細胞(hADSC)、すなわち脱落乳歯幹細胞(SHEDs)および歯根膜幹細胞(PDLSCs)のHihg-throughput molecular comparisonを行った。Nano-LC(MS/MS)を用いたSHEDsとPDLSCsの詳細なプロテオームマッピングの結果、SHEDsにおいて2032、PDLSCsにおいて3235のタンパク質が同定された。1516のタンパクは両細胞に発現し、517がSHEDsに特異的、1721がPDLSCsに特異的に発現していた。これら発現タンパクのさらなる詳細な解析から、SHEDsは細胞骨格の制御、細胞遊走・接着にかかわる分子をより多く発現し、一方PDLSCsは高いエネルギーを生産する細胞であり、細胞の代謝や増殖にかかわるタンパクを多量に発現していることが示唆された。それぞれの特徴的な性質や分子経路を反映して、Rho-GDIシグナル経路がSHEDsとPDLSCsを見分けるバイオマーカーとなりうるのではないかと思われる。

 

脱落乳歯幹細胞と歯根膜幹細胞のプロテオーム解析をLC-MS/MSで行った研究。どうしてこの二つを比較しようと考えたのかが興味深い。乳歯の歯髄と永久歯の歯根膜の比較から何を知りうるのか。組織幹細胞として一方は歯髄・象牙質などを形成し、一方はセメント質・歯根膜・歯槽骨を作る幹細胞とされている(ここはputativeとすべき)。ドナー年齢はSHED が9-11才、PDLSCが11-16才と可能な限り揃えようとしたことが伺える。象牙質とセメント・歯槽骨を作る細胞という機能的に異なる細胞にはどんな違いがあるのだろうか、というのは当然の疑問だと思うが、それならば同一歯の歯髄幹細胞と歯根膜幹細胞の比較の方が、真実に迫れそうに思う。網羅的解析をやったということを報告する論文。そのため論文のほとんどは得られた大量のデータの羅列。SHEDsが遊走が速く、PDLSCがエネルギーが高く・増殖活性が高いというデータベースからの情報を検証しているが、インパクトはない。目的の為に適切な手段を選ぶのではなく、手段が目的になってしまった。