歯根膜幹細胞において、セメント質関連遺伝子は骨形成性刺激によって減少し、ビタミンC処理によって上昇する

Cementogenic genes in human periodontal ligament stem cells are downregulated in response to osteogenic stimulation while upregulated by vitamin C treatment

Cell Tissue Res (2017) 368:79–92

Gauthier et al., Boston University, Boston, USA.

 

歯周組織、特にセメント質の再生は、歯根膜の付着と健康の再獲得においてカギを握っている。ヒト歯根膜幹細胞(hPDLSCs)は歯周組織再生のための良好な細胞源であることが報告されてきた。しかしながら、そのサブポプレイションやセメント質形成性系列への分化誘導については不明である。そこで、本研究のPDLSCのサブポプレイションにおけるセメント質関連遺伝子の発現を解析し、広く骨芽細胞分化誘導として知られる刺激とビタミンC(VC)のセメント質あるいは骨芽細胞関連遺伝子発現への影響を検討した。定量PCR(qPCR)法の結果、セメント質マーカーであるcementum attachment protein (CAP)はSTRO-1+/CD146+, STRO-1-/CD146+, そしてSTRO-1-/CD146-集団で、もともとの集団よりわずかに高かった。一方、これらの細胞集団でのcementum protein 1 (CEMP1)発現は、元の集団と差はなかった。興味深いことに、骨形成性刺激を行うと、CAPおよびCEMP1が減少し、骨形成性マーカーであるbone sialoprotein (BSP)やosteocalcin (OCN)が上昇した。VC刺激によってCAPとCEMP1の発現が亢進した。VCで処理したPDLSCsを免疫不全マウスに移植したところ、有意な異所性のセメント質様あるいは骨様組織を形成した。異所性組織を免疫組織化学的に検討したところ、CAPとCEMP1は主に石灰化組織と一部の線維性組織中の細胞に発現していた。結論として、骨形成性刺激はセメント質については誘導性ではなく、むしろ阻害的に働き、一方、VCはPDLSCsのセメント質形成性細胞系譜への分化を誘導し、歯周組織再生においてセメント質形成のための刺激として有用と考えられる。

 

骨芽細胞分化とセメント芽細胞分化は異なるかもしれないという論文。骨芽細胞分化誘導が10 nM dexamethasone,10 mM b-glycerophosphate, 50 ug/ml ascorbate phosphate, 10 nM 1, 25 dihydroxyvitamin D3 (VD3) and 10% FBS でセメント芽細胞分化誘導因子がVC(20 ug/ml)だ。論文中で骨芽細胞分化に使われたascorbate phosphateとセメント芽細胞分化誘導因子とされたVCが同じものなのかどうかが説明はない。濃度は50 ug/ml と20 ug/mlで異なるが、VCをascorbateと表現しないのはフェアといえるか。骨芽細胞分化とセメント芽細胞分化の誘導方法がクリアに二分されることは、今まであやふやだったセメント芽細胞を知る大きな手掛かりになるが、その期待には及ばないと思う。Ascorbic acidは最近培養PDLSCをシートにするためによく使われていて、そのシート細胞材料を移植すると歯周組織再生が増強されるらしい。シートになるだけでなくセメント芽細胞への分化誘導がされているなら一挙両得。一般的にAscorbic acidは細胞によるコラーゲン合成においてプロリン、リジンを水酸化する翻訳後修飾を促してprocollagenの産生を上げる。石灰化には必須だが、これが分化を促進する、それもセメント芽細胞へ。データはクリアとは言えない。In vivoの結果も、VCで処理した細胞は移植されているが、骨芽細胞へ誘導した細胞は移植されてないのか、データがないため、本実験の方法で誘導したセメント芽細胞と骨芽細胞がin vivoで形成する硬組織の差もわからない。セメント質分化の実験はみなこうなる。