自己歯根膜幹細胞を用いた歯周骨内欠損の治療:ランダム化臨床試験

Treatment of periodontal intrabony defects using autologous periodontal ligament stem cells: a randomized clinical trial

Chen et al., Stem Cell Research & Therapy (2016) 7:33

Fourth Military Medical University, China

 

歯の支持組織を進行性に破壊する歯周炎は最も拡大した感染症の一つであり、成人における歯を失う大きな原因である。前臨床研究や小規模の予備的実験における研究データによると、歯根膜組織より得られた幹細胞は、失われたあるいは障害を受けた歯周組織の再生治療に対する有望な治療である。本研究は、歯周骨内欠損へ組織再生誘導法(GTR法)に自己歯根膜幹細胞(PDLSCs)を併用した治療の安全性、有効性を検討したものである。この研究結果は、歯科領域の再生治療における細胞移植の有効性についての臨床的エビデンスとなるものである。我々は自己PDLSCsとウシ由来骨ミネラル材料の組み合わせで歯周組織骨内欠損を治療する単施設、ランダム化臨床試験を行った。患者はランダムに細胞群(GTR+PDLSCsシート+Bio-oss)、コントロール群(GTR+Bio-oss)に割り当てられた。12か月の観察期間の有害事象について観察した。治療効果として、手術後の歯槽骨再生の程度を主要評価項目とした。18歳から65歳の計30名の患者(48歯の歯周組織骨内欠損)が本研究の研究対象となり、ランダムに細胞群およびコントロール群に割り当てられた。コントロール群では21歯を細胞群では20歯を治療した。すべての患者に対して手術と臨床評価を行った。PDLSCsに起因する臨床的な安全性に関わる有害事象は観察されなかった。いずれの実験群においても、時間経過とともに有意な歯槽骨高さの増加(骨欠損深さの減少)が認められた(p<0.001)が細胞群とコントロール群の間に有意な差はみられなかった(p>0.05)。この研究は自己PDLSCsを用いた歯周骨内欠損の治療が安全であり、有意な有害事象を起こさないことを示した。細胞を用いた歯周治療の有効性検証には、サンプルサイズを大きくしたさらなる多施設、ランダム化研究が必要である。

 

PDLSCsシートをGTR、Bio-ossと組み合わせたヒトでの臨床試験の結果。動物実験は沢山行われ、ポジティブな結果が出ている幹細胞移植、ヒトでの臨床研究の段階に来ている。他のバイオマテリアルに比べ細胞は遥かに考慮すべき点が多くヒトでの研究を遂行したことは本当に意義が大きい。実際の研究結果としては、血液検査と尿検査をおこない大きな検査異常は見られないこと、約30日間の細胞培養において染色体のカリオタイプにも問題がないことを示している。安全性には問題がない。気になる臨床的な評価では、細胞移植による付加的な効果はみられないようだ。過去に4つのヒトでのpilot studyがあるが(Int J Periodontics Restorative Dent. 2006;26(4):363-9、Eur Cell Mater. 2009;18:75-83、Oral Dis. 2010;16(1):20-8、Int J Periodontics Restorative Dent. 2011;31(2):149-55)いずれも小規模で厳密な比較研究ではなく、細胞治療が良い結果をもたらす印象を与えている。そういう意味で本研究はレベルの異なる厳密な条件での研究で、差がみられないというのは頭を切り替えてよく受け止める必要がある。なぜGTR+Bio-ossとGTR+細胞+Bio-ossは差がないのか。GTRと組み合わせたからなのか。差がないのであれば細胞をやる必要は無いのか。筆者らは方法を改善する必要があるというが、そうすることで結果が変わってくるのか。手術的介入では材料や術式の併用による付加的メリットが出ることは少ないが今回もそういうことのようだ。他のbiomaterials以上に大きな利点がなければ苦労して細胞を移植する治療は成り立たない。細胞でなければ達成できないレベルの再生が起きない限り、細胞移植治療は受け入れられないのではないだろうか。この論文をしっかり出してくる中国の研究者の力は非常に大きいと思う。対象患者の年齢が若めなこと、欠損が比較的小さいことなども考えるべきか。