ヒト歯根膜由来幹細胞は眼神経損傷後における網膜神経節細胞の生存と軸索再生を促進する

Human Periodontal Ligament-Derived Stem Cells Promote Retinal Ganglion Cell Survival and AxonRegeneration After Optic Nerve Injury

Stem Cells, 2018;36:844–855

Cen et al., Joint Shantou International Eye Center of Shantou University and The Chinese University of Hong Kong, China

 

眼の神経障害は、発展途上国において不可逆性の失明や視力異常を引き起こす大きな原因となっており、世界中で8000万人以上が関係している。ほとんどの眼神経損傷には有効な処置が無い一方で、網膜神経節細胞(RGC)の保護あるいは軸索再生については多くの研究がなされている。我々は以前、網膜の細胞置換に対するヒト歯根膜由来幹細胞(PDLSC)の可能性を報告した。本研究では、眼神経挫滅損傷(ONC)後における、ヒトPDLSCのRGC変性を抑制する神経保護作用および軸索再生亢進について報告する。In vivoではPDLSCをOCN後に成獣Fischerラットの硝子体腔へ注射投与し、in vitroでは網膜組織片と共培養した。ONC3週間後、PDLSCは硝子体腔内で生存しRGC細胞層を維持していた。bIII-tublinおよびGap43の免疫経口染色解析では、RGCsの生存数および軸索再生が、ヒトPDLSCを移植したラットにおいて有意に増加していることが明らかとなった。In vitroの共培養は、PDLSCが網膜組織片におけるRGCの生存と神経突起再生を炎症反応を惹起することなく亢進することを示した。内因性前駆細胞の再生ではなく、直接的な細胞-細胞間の相互作用と脳由来神経液性因子の分泌がヒトPDLSCによるRGC保護の作用メカニズムであった。まとめると、本研究は、RGCの生存と軸索再生によるヒトPDLSCの神経保護作用をin vivoおよびin vitroで示し、眼神経損傷時のRGC保護に対する治療可能性を示唆するものである。

 

ヒトのPDLSC移植によってラットの網膜の神経障害による問題を解決しようという論文。この筆者らはこの論文の前に2本の論文でPDLSCが網膜神経障害の治療に使える可能性を報告している(Huang L et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 2013;54:3965–3974. Ng et al., Sci Rep 2015;5:16429)。PDLSCが胚葉を超えてRGCに分化する能力を示している。そしてPDSLCの95%がMSCで5%が神経堤幹細胞であるというデータまで発表している(Sci Rep 2015;5:7828.)。In vitroの分化系でマーカー遺伝子が上がったとか、機能の一部を示す現象が見えたということが、すぐさま投与したらその組織になって医療に使えるということにはならないのだと思うのだが、単純なストーリーを簡単になぞってゆく流れは危険な雰囲気がある。本研究では移植したヒト細胞をラットの組織の中で抗ヒト核抗体(Millipore)で染めているのだが、核は全く染まっていない。染まっているのは核膜?と細胞質でDiscussionでは、その理由として移植細胞がダメージを受け、あるいは死んでしまってエピトープが移動したということが書いてある。そもそもPDLSC移植による眼神経への影響がすべて免疫組織から語られている。難しいとは思うが、何か機能的なアッセイが必要ではないだろうか。In vivoではPDLSCのRGCへのtransdifferentiation はみられず、結局は液性因子が役割を果たすことに結論されている。