ヒストン脱アセチル化酵素6の発現低下が歯根膜幹細胞の老化に関与する

Declined Expression of Histone Deacetylase 6 Contributes to Periodontal Ligament Stem Cell Aging

Li Q.et al., J Periodontol 2017: 88(1), e12-23.

Peking University School and Hospital of Stomatology

 

老化にかかわる幹細胞(SC)機能の低下を制御する因子を特定することは、SC生物学やSCによる治療法において非常に重要なトピックである。歯科領域の間葉系幹細胞であり、歯の再生能力を持つ歯根膜幹細胞(PDLSCs)は、in vivo とex vivoの増殖において機能の減少を伴う老化を起こす。しかしPDLSC老化の制御因子についてはほとんどわかっていない。PDLSC老化を制御する候補因子であるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC6)の発現変化を種々のモデルで評価した。薬理学的阻害剤やRNA干渉によるノックダウンを用いて、HDAC6の機能排除モデル(loss of function)における PDLSCの細胞増殖停止に関連する表現型(Senescence-associated phenotypic alteration)や機能変化を検討した。HDAC6にかかわる老化へのp27Kip1の関与を、HDAC6を過剰発現あるいは抑制した時のアセチル化および安定性の変化によって示した。HDAC6の発現は分裂による増殖停止とSCの老化誘導モデルにおいて有意に減少した。阻害剤を用いた機能阻害実験では、HDSC6の抑制によりPDLSCの増殖停止や、骨芽細胞分化や遊走能の減少で示される幹細胞機能の低下を加速させた。SC細胞増殖能枯渇のマーカーを検討したところ、p27Kip1のタンパクレベルはHDSC6を阻害すると特異的に増強されることが明らかとなった。HDAC6は物理的にp27Kip1と作用しp27Kip1を脱アセチル化していた。重要なことはp27Kip1のアセチル化は、HDAC6によって負に制御されており、これによってp27Kip1のタンパクレベルが変化していた。HDAC6は(少なくとも部分的には)p27Kip1のアセチル化を介してPDLSCの老化において重要な役割をもっている。

 

PDLSCの老化による機能低下のメカニズムとしてHDAC6によるp27Kip1脱アセチル化の減少を示した論文。紛らわしいのでまとめておくと、PDLSCが老化するとHDAC6が減少する。するとp27Kip1の脱アセチル化が減少するので、アセチル化が増強される。アセチル化されたp27Kip1が細胞周期停止にどう関与しているかは示されていない。p27Kip1の変化はタンパクレベルで、おそらく脱アセチル化されたp27Kip1は処理されていて、若い時はHDAC6があることで脱アセチル化されてp27Kip1は低いレベルに抑えられている。アセチル化されたタンパクは安定で、脱アセチル化されたものは不安定。老化のメカニズムは様々な細胞で検討されている。特に幹細胞の老化は、それによる疾患の進行や創傷治癒の遅延などの問題もあり積極的に研究されている。そのメカニズムはガンの治療ターゲットにもなりうる。ヒストンの脱アセチル化、アセチル化と転写活性の話が多い中、HDAC6は細胞質に存在しp27Kipなどの転写に関与するタンパクを脱アセチル化している点を新しく学んだ。幹細胞の老化はよく知っておく必要があることを実感した。実験系としては、誘導性のagingの系がいくつも出てくるので覚えておく。