同一患者から得られた“炎症性”および健常歯根膜幹細胞の共培養によって作成した細胞材料の評価

Assessment of cellular materials generated by co-cultured ‘inflamed’ and healthy periodontal ligament stem cells from patient-matched groups

Experimental Cell Research 346 (2016) 119–129

Tang et al., Fourth Military Medical University, China

 

近年、歯周炎に罹患した炎症性歯根膜から得られた幹細胞(I-PDLSCs)が、健全歯根膜から得られる幹細胞(H-PDLSCs)よりも、再生治療のための簡単に手に入る細胞源であると考えられている。しかしながら、I-PDLSCsがH-PDLSCsと比較して機能的に劣っていることも示されている。本研究では、同一患者から採取したI-PDLSCsおよびH-PDLSCsを異なる比率で共培養した。これらの培養系から得られた細胞材料をin vitroでの骨芽細胞分化能、そしてin vivoへの移植後の新生骨形成能の点から検討した。同一患者のI-PDLSCsとH-PDLSCsは共培養において共存していたが、in vitroの培養期間中にI-PDLSCsの比率が増加した。H-PDLSC単独の培養に比べて、共培養系でI-PDLSCsが存在すると細胞増殖を増強するようであった。また完全ではないが、I-PDLSCsとH-PDLSCs共培養によって作製された細胞材料は、I-PDLSCs単独培養で作られた材料に比べて骨芽細胞分化、および再生能力を優位に改善させた。興味深いことに、50%のI-PDLSCsと50%のH-PDLSCsあるいは25%のI-PDLSCsと75%のH-PDLSCsはH-PDLSCs単独の材料と同等の骨芽細胞分化に関連するタンパクおよび遺伝子の発現を示した(P>0.05)。I-PDLSCsの比率にかかわらず、H-PDLSCの比率が50%あるいはそれ以上の場合、H-PDLSCs単独の材料と同等のin vivo骨形成を示す多量の細胞材料が得られた。これらの結果より、同一患者のI-PDLSCsとH-PDLSCsの共培養は、骨芽細胞分化および再生能力を増強させる実用的かつ効果的な方法であることが示唆された。

 

炎症のないPDLから採取したH-PDLSCsと歯周病罹患歯のPDLから培養したI-PDLSCを一緒に培養すると骨芽細胞分化、骨形成能はどのように変化するのかを検討した論文。PDLSCsの臨床応用を考えた時に常に問題になるのは「どこから細胞を取ってくるのか」ということ。さらに歯周炎の歯から取った幹細胞は機能が落ちているというデータがある以上、健全な歯から取るべきだが、そうなるとさらに細胞源が減ってしまう。健常なPDLSCと混ぜることで、歯周炎に罹患した歯からも細胞を取ることが許容されないかという仮説。この筆者たちは炎症のある歯からとったPDLSCsと炎症のない歯からとったPDLSCsが機能的に、特に骨芽細胞分化能において差があることを示している(J.Clin.Periodontol.43(2016) 72–84.)。シナリオとしては非常にリーズナブルで簡単に納得のいく結果だが、間葉系幹細胞populationは非常にhetelogeneietyが高く、batchごとの分化能が大きく異なると思われる。つまり健常の歯からいつも同じ程度の幹細胞性を持つ細胞群を単離培養することは非常に難しく、そういう意味で炎症・健常で区切ることの意味があるのか、この現象の再現性がどの程度のものか疑問がある。彼らはH-PDLSCsの減少した骨芽細胞分化能がI-PDLSCsの培養上清によって改善することも過去に示している(J.Periodontol.87(2016)e53–e63)。加齢、培養後の分裂回数、炎症を含めたドナー歯の状態、個体差、など幹細胞の機能を減少させる要因は沢山あり、それらをすべて同じくして実験を行うことは非常に困難。そもそも、能力が低いものと高いものを混ぜたら、元の低いものに比べて高くなるのは当たり前で、現象として重要なのは混ぜることで、お互いがお互いに作用を及ぼして細胞自体を変化させるかどうかということではないか。すべて混ぜた全体での話になっており、その点については全く検討されていない。In vivo移植での骨形成は、本当に骨だろうか?。すべてがすばらしくそろっていて本当にみえないという印象がある。