失った歯の補綴処置としてのバイオルートおよびインプラントを用いた治療

Bio-Root and Implant-Based Restoration as a Tooth Replacement Alternative

Journal of Dental Research 2016, Vol. 95(6) 642–649.

Gao et al., Capital Medical University School of Stomatology, China

 

我々は過去に歯科領域の幹細胞を用いた組織工学的に作成した再生歯根(バイオルート)によって、ミニブタモデルにおいて歯の欠損を補綴できることを報告した。新たな欠損補綴法として、本方法を現在広く使われている商業的歯科用インプラントによる補綴と比較することは重要である。歯の欠損モデルはミニブタの下顎切歯を抜歯し作製した。他家歯根膜幹細胞(PDLSCs)および歯髄幹細胞(DPSCs)を単離培養した。PDLSCシートを20マイクログラム/mLのビタミンCを培養液に加えることで作製し、さらにハイドロキシアパタイト・リン酸3カルシウム(HA/TCP)/DPSC移植体を3次元培養システム内で培養し作製した。計46本のバイオルートと9本の歯科用インプラントを埋入した。組織学的、レントゲン、生物物性学的、元素組成分析を行い組織工学的に作製したバイオルートと歯科用インプラントを天然歯根と比較、検討した。6か月後、CTスキャン、組織学的検査の両方において歯根様構造物、および象牙質様組織の形成がみられた。クラウンによる補綴処置3か月後に臨床的検査を行ったところ、再生したバイオルートと歯科用インプラントの間で歯の機能は同等であった。生物物性学的試験では、バイオルートは圧縮強さ、弾性係数、ねじり力において天然歯根と類似した結果をしめした。しかし、これらの値は歯科用インプラントで有意に高かった。元素組成分析を行ったところ、バイオルートと天然歯の間の類似性はバイオルートと歯科用インプラント間に比べて高いことが明らかとなった。しかしながら、歯科用インプラントの成功率が100%(9本中9本)であった一方で、バイオルートの成功率はわずか22%(46本中10本)であった。これらをまとめると、他家由来HA/TCP/DPSC/PDLSCシートを用いることにより天然歯根と機能的にも構造的にも類似したバイオルートを形製することに成功した。しかし成功率を改善させるために組織工学的な手順のさらなる最適化を行う必要がある。

 

HA/TCPに実験室で幹細胞シートを巻き付け、歯槽骨に埋め込むバイオルートの物性を天然歯、インプラントと比較した論文。正直に言うと、バイオルートの戦略がここまで本気にやられていることに驚いた。2006年にPLOS OneでSonoyamaらがブタで幹細胞をHAと一緒に移植して人工歯根様を用意し、その上をクラウンで補綴したのを見たときはずいぶんと驚いたが、その後後発の報告もみなかった。本研究はその研究グループによるもので、彼らはその後、このバイオルート(と呼んでいる)を2013年に同じくブタで他家由来幹細胞を使ってプロトコールを確立したらしい(Stem Cells Dev. 2013, 22:1752–1762)そして今回、その臨床的機能的評価をインプラント、天然歯と比較している。まずバイオルートの作成法をまとめると、2*10^6のDPSCをHA/TCPの上へ播き、ロータリーシェイカーで5日間培養する。そして、そのHA/TCP/DPSCをビタミンC添加した条件で7-10日培養したPDLSCの上へ置き、はがしながら巻き付ける。

結果として、出来たバイオルートは天然歯と同じような物性を持ち、補綴処置をすればインプラント同様6か月機能するという素晴らしい結果だ。非常に興味深い研究で、いくつか気になる点がある。まず、気になるのは出来上がったのが本当にセメント質-歯根膜-歯槽骨の付着様式を備えているのかということ。組織標本で歯根膜様組織の再生といっているが、セメント質様の組織はできているとは思えない。歯槽骨との界面のところでちょうど写真が切られているので、付着ができているのかがセメント、骨両面でわからない。出来上がったバイオルートのレントゲンでは歯根膜空隙が非常に広い。被包化との区別はどうなのか。ビデオまで示して移植体の作り方などを詳細に示しているが、本当に気になる移植後のバイオルートの口腔内での機能状態については、示される情報が極端に少なくなる。ここの部分を失敗も含めてなるべく多く見せてほしいところだ。重要でないところの情報は過剰なほどなのに肝心なところは情報を出さないのは結果が悪いからかと思われても仕方がない。歯肉炎もインプラント周囲炎もなかったと言っているが、Figure3はどう控えめに見ても歯肉に炎症がある。バイオルートの成功率が22%ということだが、様々な物性試験などが天然歯とほぼ同じという驚くべき結果は成功したバイオルートで行ったのか、それとも失敗例も含めた全例の平均なのか(おそらく成功例だろう、Figure4でのnが極端に少ない)。また、DPSCを内面(象牙質側)に入れているので歯髄再生も狙っているのだろうが、歯髄については全く結果がない。非常に野心的な研究で、これが確立すれば新しい歯科治療となると思われるが、本当にこの戦略はうまくいくのだろうかと思ってしまう。良い結果だけでなく、悪い結果も含めたバイアスを排除した結果の報告が科学への貢献だろうと思う。