無細胞化した歯根面への歯根膜幹細胞の接着はリン酸カルシウム/ファイブロネクチン表面処理により相乗的に改善される

Synergistic Effects of a Calcium Phosphate/Fibronectin Coating on the Adhesion of Periodontal Ligament Stem Cells Onto Decellularized Dental Root Surfaces

Lee JS et al., Yonsei University, Seoul, Republic of Korea

Cell Transplant. 2015;24(9):1767-79.

 

本研究の目的は歯根膜幹細胞(PDLSC)の無細胞化した歯根表面への接着をファイブロネクチンおよびリン酸カルシウム(CaP)を用いて増強し、表面処理した歯根面へのPDLSC の接着活性を歯の再植後に評価することであった。PDLSCは5頭のイヌより単離し、PDLSC担体として歯根を用いた。歯根表面のコーティングの種類により4つの実験群、CaP群、ファイブロネクチン群、CaP/ファイブロネクチン群、無処置(コントロール)のいずれかに割り当てた。PDLSCの歯根表面への接着はファイブロネクチンによって、コントロール群、CaP群と比較して増加し、CaP/ファイブロネクチン処理はPDLSCの接着をファイブロネクチン単独に比べて増強した。In vivo 再植モデルでは、CaP/ファイブロネクチンをコートした歯根表面に自己のPDLSCsが接着し機能的に配列した新付着が観察された。一方、コントロール群では歯根全体に渡る歯根吸収と骨性癒着がみられた。CaPとファイブロネクチンは相乗的にPDLSCsの歯根表面への接着を増強し、実験的なin vivoモデルにおいて自己PDLSCsによる新付着の形成が可能であった。

 

抜去した歯根面上にPDLSCを接着させて再植すると付着が回復するのではないかという仮説をしっかりと検討した論文。データが明瞭に示されている。イヌから自己のPDLSCを培養し無細胞化した歯根面に接着させて再植する系は非常に興味深い。また、異所性モデルもこれまでいくつもの論文が出ているがそれに沿う結果だ。異所性モデルでは80mgのCaPに6*10^6の細胞を混ぜ、免疫不全マウス背部に埋めている。新生セメント質と思われる組織はHEでピンク色の層になる。果たしてこれは本当にセメント質なのか。もしそうなら貴重なセメント形成の系となる。形成されたセメント質はCaP表面の一部であるし、これは自分の実験で感触をつかむ必要がある。歯根の再植モデルでは歯根のプレパレーションでセメントを取らないようにしたとあるが、実はこれがクリティカルなのか。標本としてnatural rootが出ているので実験群の結果と間違えそうになるが、細胞群では一部の再付着と歯根吸収、骨性癒着が混在した結果となっている。割合的には4:2:4程度か。約6割が歯根吸収/骨性癒着でありこれはなかなか正直な結果ではないだろうか。出来上がった新生PDLも幅が狭く、細胞成分も乏しい。これは機能していないからか。筆者たちの考えている再植モデルの部分的な歯根吸収/骨性癒着の原因は、抜歯窩に再植した時の細胞生存が悪かった事、根面への細胞の接着が根全体で同じようにできなかったこととのこと。Bioengineering rootの作成は本当に難しいことだと実感した。細胞接着ではFibronectinによってずいぶんと変わるものだと思う。