In vitroにおける歯科領域由来間葉系幹細胞のインシュリン産生細胞への分化の可能性

A feasibility study of an in vitro differentiation potential toward insulin-producing cells by dental tissue-derived mesenchymal stem cells

Biochem Biophys Res Commun. 2014 Aug 30 [Epub ahead of print]

Sawangmake C et al., Chulalongkorn University, Thailand

 

糖尿病に対する治療として幹細胞から得られたインシュリン産生細胞移植の可能性が報告されている。これまでES細胞、肝幹細胞、臍帯血幹細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、多能性皮膚線維芽細胞などが動物実験において使用されている。歯科領域から得られる幹細胞、歯髄幹細胞(hDPSC)および歯根膜幹細胞(hPDLSC)のインシュリン産生細胞(IPCs)への分化の可能性について検討した。IPSsへの分化誘導は3段階に分かれる。すなわち10^6個の細胞を非付着系で3種類の無血清培養液(SFM)で培養する(SFM-Aにて3日,Bにて2日,Cにて5日間)。SFM-Aは無血清DMEMに1%BSA, insulin-transferrin-selenium(ITS), activin A, 酪酸ナトリウム, beta-mercaptoethanolを含む。SFM-BはAからactivinと酪酸ナトリウムを除いてtaurineを加えたもの。SFM-CはBにglucagon-like peptide-1, nicotinamide, non-essential amino acidsを加えたものである。間葉系幹細胞としてのキャラクター(細胞表面マーカー、骨・脂肪への分化)の確認されたhDPSC、hPDLSCを上記の方法で分化誘導したところコロニーは成長しIPCマーカー遺伝子の発現の上昇がみられ、PRO-INSULIN免疫染色陽性像が見られ、hDPSCでこの傾向が強かった。Glucose存在下での培養でC-peptide量の増加、Notchターゲット遺伝子HES1, HEY1がhDPSC由来IPSで増加がみられた。Gammaセクレターゼ阻害剤を分化誘導培地に添加するとSFC全てとSFC-Cに添加した群でC-peptideの産生が抑制されたが、マーカー遺伝子の発現に変化はなく、コロニーの大きさ、PRO-INSULIN陽性像との一致も見られなかった。これらの結果より、hDPSCはhPDLSCよりIPSCへの分化能力が高く、Notchシグナリングがその分化に関与している可能性が示唆された。

 

歯髄、歯根膜由来間葉系幹細胞が中胚葉以外の分化系列へも分化する能力がある事を示した論文。このような一連の間葉系幹細胞の胚葉を越えた分化誘導にはspheroid培養が用いられる事が多いが、spheroidにすることでどんな変化が細胞にあるのだろうか。またこういったin vitroでの分化誘導とは何を示しているのか。ここで得られたIPSは確かにマーカーなどを発現しているが、生体内で機能するだけの能力があるのか。これは骨芽細胞、脂肪細胞についても同じだ。なぜhDPSはhPDLSよりIPSへの分化能が高いのか。細かくみるとここで使われているPDLSCは骨・脂肪への分化能も低いようだ。Notchの役割は結局よくわからない。過去の報告に照らし合わせて歯科で扱える間葉系幹細胞をインシュリン産生細胞に分化誘導できた、というだけの論文になっているのではないか。そもそもin vitroで誘導したIPSで本当に糖尿病を治療できるのか興味がある。ほぼ同様の報告がPDLSCについてLee らによって(Cell Biochem Funct. 2014 Sep 4.)なされている。